どっと頭の上へ降ってきた。が、彼はそんなことには少しも気がつかなかった。で、それからなおしばらくして、一人の巡査が、傍らに例の*戟《ほこ》を立てかけたまま、角型《つのがた》の煙草入れからタコだらけの拳の上へ嗅ぎ煙草を振り出しているところへ、どすんとつき当たった時、初めて少しばかり人心地がついたが、それも巡査に「こら、何だって人の鼻面へぶつかってくるんだ? きさまにゃあ通る路がないのか?」とどなりつけられたからである。それで彼はようやくあたりを見まわして、わが家の方へと踵《きびす》を返した。ここで初めて彼は自分の考えをまとめにかかり、自己の立場のはっきりした真相を認めて、今はもう切れぎれにではなく理路整然と、しかもどんな打ちとけた内輪話でもできる思慮分別のある親友とでも話しているように、ざっくばらんに自問自答をやりはじめたものである。【いや、駄目だよ】と、アカーキイ・アカーキエウィッチは言った。【今、ペトローヴィッチとかれこれ話してみたところで始まらんわい。やっこさん、今はその……きっと、どうかして、あの女房にぶん殴られでもしたのに違いないて。こりゃあやっぱり、日曜日の朝にでもやっこさん
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