と、横眼でじろじろ眺めるのが好きであった。
「外套一着に百五十ルーブルだって!」と、哀れなアカーキイ・アカーキエウィッチは思わず叫び声をあげた――おそらく彼がこんな頓狂な声を立てたのは、生まれて初めてのことであったろう。というのは、彼は常々、きわめて声の低い男であったからである。
「御意《ぎょい》のとおりで。」と、ペトローヴィッチが言った。「それも外套によりけりでしてな。もし襟に貂《てん》の毛皮でもつけ、頭巾を絹裏にでもして御覧《ごろう》じろ、すぐにもう、二百ルーブルにはなってしまいますからなあ。」
「ペトローヴィッチ、後生だから、」とアカーキイ・アカーキエウィッチはペトローヴィッチの言い草や法外な掛値には耳も貸さず、いや貸すまいとして、歎願するような声で言った。「何とかして、もうほんの少しの間でも保《も》たせるように、繕って見ておくれよ。」
「いや、駄目なことですよ。どうせ骨折り損の銭うしないってことにしきゃなりませんから。」とペトローヴィッチが言った。こんな言葉を聞かされて、アカーキイ・アカーキエウィッチはすっかり意気悄沈して表へ出た。ペトローヴィッチはお客が立ち去ってからもなおし
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