髭面に素早く切札を叩きつけた。
「おつと、どつこい! それあ哥薩克らしくないやり方だよ! いつたいお前さん、なにで切りなさるのぢや?」
「なにで切るとはなんぢや? いはずと知れた、切札で切つたのぢや!」
「ひよつとしたら、お前さんがたの方ではそれが切札なのかもしれないが、妾たちの方では、さうぢやないんだよ!」
見れば、なるほどそれは普通《ただ》の牌だ。奇態なこともあるものだ! 今度も負けになつてしまつた。そして妖怪どもは又しても声を張りあげて※[#始め二重括弧、1−2−54]阿房《ドゥーレン》! 阿房《ドゥーレン》!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と喚き立てた。それがために卓子がガタビシ揺れて、骨牌の札が卓子の上で躍りあがつた。祖父は躍起になつて、いよいよ最後の、三囘目の札を配つた。勝負は再び順調に進んだ。妖女《ウェーヂマ》が又しても二二一《ピャチェリク》を揃へた。祖父はそれを殺しておいて、堆牌《やま》から札を取ると、それがどれもこれも切札ばかりだ。「切札!」と叫んで彼は、その札が笊《ざる》のやうに反りかへつたほど力まかせに卓子へ叩きつけた。相手は何にも言はずに普通牌《なみふだ》の八をその上へ重ねて置いた。
「いつたい何で殺さうつてんだ、この古狸め?」
妖女《ウェーヂマ》は自分の置いた牌《ふだ》を取りあげた。と、その下にあるのは普通牌《なみふだ》の六だつた。
「ちえつ、悪魔め、誤魔化しやあがつて!」さう言つて祖父は腹立ちまぎれに、拳を振りあげて、力まかせに卓子をたたきつけた。だが、まだしも仕合はせなことには、妖女《ウェーヂマ》の手が余り香ばしくなくて、祖父の手に今度はお誂へむきな揃札《くつつき》が出来た。そこで堆牌《やま》から札をめくりにかかつたが、いやもう我慢も出来ないやうな、碌でもないものばかり起きてくるので、祖父はがつかりしてしまつた。ところが堆牌《やま》がすつかりになつてしまつた。彼は、もうかうなれば破れかぶれだとばかりに、六の普通牌《なみふだ》を打つた。と、妖女《ウェーヂマ》がそれを受け取つた。
「おやおや! これあ又、いつたいどうしたといふのぢや? うへつ! なんだかこれあ、少しをかしいぞ!」
そこで祖父は自分の牌《ふだ》をそつと卓子の下へ匿して十字を切つた。と、どうだらう、持牌《もちふだ》は切札の|A牌《ポイント》に王牌《キング》に兵牌《ジャ
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