な!」
「そんな話なんか、どうだつていいぢやないか、おれの別嬪さん! 女房《かみさん》連や馬鹿な手合は何を言ふやら分つたものぢやないよ。胸騒ぎがして、怖気づいて、夜もおちおち眠られなくなるのがおちだよ。」
「話してよ、話してよ、ね、可愛い、いなせな黒眉のお兄さんつてば!」彼女はさう言ひながら自分の顔を相手の頬におしつけて、男を抱きしめた。「ぢやあ、きつと、あんたはあたしを好いてゐないんだわ、あんたには屹度ほかに好い娘《こ》があるんだわ。ね、あたし怖がりなんかしなくつてよ。夜もとつくり眠るわ。もし話して下さらなければ、それこそ眠られやしないわ。気になつて気になつて、考へこんぢやふから……。ね、話してよ、レヴコー!……」
「なるほど、娘つこには好奇心をそそのかす鬼がついてるつてえのは、ほんとだ。お聴きよ、ぢやあ――それはずつと昔のことなんだよ。ね、あの館《やかた》にはさる*百人長《ソートニック》が住んでゐたのさ。その百人長《ソートニック》には一人の娘があつたんだよ。綺麗な令嬢《パンノチカ》で、ちやうどお前の顔みたいに、雪のやうな肌の娘だつたのさ。百人長《ソートニック》はもうずつと前に奥さん
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