い村長の住居を指さして叫んだ。カレーニクは又もや村長の悪口をほざきながら、すなほにその方角へ、よろよろとして歩き出した。
ところで、かうした、甚だもつて香ばしからぬ蔭口を叩かれてゐる村長とは、いつたい何者だらう? いや、実にこの村長こそ、村の大立物なのだ! カレーニクが目ざすその家へ行きつくまでにわれわれは間違ひなくこの人物について若干の説明をすることが出来ようと思ふ。村民は誰れ彼れなしに村長の姿を見ると遠くから帽子をとるし、ほんのおぼこの娘つ子でも、こんにちはと挨拶をする。若者として、誰ひとりかうした村長になりたがらない者はなからうといふものだ。誰の嗅煙草入にしろ、村長に対しては御意のままに開放されて、どんな頑丈な百姓でも自分の綰物《まげもの》の嗅煙草入へ、村長が太い無骨な指を突つこんでゐるあひだは、帽子をとつたまま恭々しくさし控へてゐなければならないといふ始末。また村の寄りあひ、即ち村会においては、村長の投票数にも一定の限度があつたにも拘らず、いつも最高点で勝利を占め、まるで気随気儘に自分に都合のいい者を使つて、路ならしや溝掘りをさせるのであつた。村長はひどく気むづかしやで苦虫を
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