おこつて、月も天心からそれに耳傾けるかと思はれるばかり……。村は魔術にでもかかつたやうに高台のうへにまどろんでゐる。民家の群れは月光を浴びて、いやがうへにも白々と輝やき、低い壁が闇のなかに一際くつきりと浮かび出る。歌声も杜絶え、すべてが寂とした静謐《しじま》にかへる。信心ぶかい人々はもうとうに寐ついてゐる。ただ此処彼処の狭い窓に灯影がさしてゐるばかり。二三の茅屋《わらや》では、時刻に遅れた家の者が入口の閾のきはで晩い夕餉をしたためてゐる。
「いんにや、ゴパックはあんな風にやあ、踊らねえだ! ちやんと、覚えといて貰ひてえだよ、ほんとに、てんでなつちやゐねえや。あの親爺《おやぢ》め、何を言つてやがるんだか?……ええか、かうだよ、ゴップ、タララ! ゴップ、タララ! ゴップ、ゴップ、ゴップ!」かう、酔つぱらつた中年の百姓が往来で踊りながら、ひとりごとを言つてゐる。「どうしてどうして、ゴパックはあんな風にやあ踊らねえだ! なんで嘘をいふもんか? いんにや、さうぢやあねえだ! そうらかうだよ、ゴップ、タララ! ゴップ、タララ! ゴップ、ゴップ、ゴップ!」
「おやおや、この人は気でも狂つただかね! 
前へ 次へ
全74ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング