プ》を持たせたものなら、とてもとても当時の若者といふ若者などは、その足もとへもよりつかれたものではなからうなどと、言ひそやしてゐた。しかし不幸にして、貧しいペトゥローには、天にも晴《はれ》にも掛換のない一枚看板の鼠いろの長上衣《スヰートカ》より他には持ちあはせがなく、それも、気のきいた猶太人の衣嚢《かくし》の中にある金貨の数よりも多く穴があいてゐるといつた代物であつた。だが、それはまだしも大した災難ではなかつた。災難なのは、コールジュ老人に一粒種の娘があつて、それが素敵もない別嬪で、諸君にも恐らくこんなのは、なかなかおいそれとは見つかるものでないと思はれるほどの美人だつたことで。亡き祖父の叔母がよく話したことぢやが――ところで女にとつては、御承知のやうに、差しさはりがあつたら御免なされぢやが、他人《ひと》のことを美人だなどと言ふくらゐなら、いつそ悪魔と接吻でもする方がよつぽど安易《らく》なはずぢやが――その哥薩克娘《カザーチカ》のふくよかな頬が見るからに瑞々《みづみづ》しくて、あのこよなく美しい薔薇いろの罌粟《けし》が神授《めぐみ》の朝露で沐浴《ゆあみ》ををへて鮮やかに燃えながら、きち
前へ
次へ
全46ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング