の五十羽とはありますまいし、玉子はおほかた腐つてるといふ始末ですよ。しかし、正直なはなし、ほんとに喜ばしい贈物といへば、ハヴローニヤ・ニキーフォロヴナ、ただあなたから頂くものの他にはありませんからね!」さう言つて祭司の息子は、甘つたるい眼つきで女を眺めながら、間近く擦りよつた。
「さあ、これがあなたに差しあげるあたしの贈物なんですよ、アファナーシイ・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ!」さう言ひながら女は、卓子の上へ皿小鉢を出したり、さもうつかり外れてゐたといはんばかりに、上着の釦を掛けたりして、「肉入団子《ワレーニキ》に、小麦粉の煮団子《ガルーシュキ》に、それから*パムプーシェチキと、*トヴチェーニチキと!」
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パムプーシェチキ 捏粉を煮た一種の食物。
トヴチェーニチキ 捏粉に肉を包んで油揚にしたもの。
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「それあもう、これを、どんな御婦人がたより上手なお手際でおつくりになつたつてえことは、賭をしてもかまひませんよ!」さう言ひながら、祭司の息子は片手でトヴチェーニチキを取りあげ、片手で肉入団子《ワレーニキ》を引きよせた。「しかし、ハヴローニヤ・ニキーフォロヴナ、わたしの胸はどんなパムプーシェチキやガルーシュキにも増してもつともつとおいしい御馳走が頂きたくつてギュウギュウいつてるのですよ。」
「さあ、このほかにどんな食べものがお望みなのか、あたしにはちよつと分りかねますわ、アファナーシイ・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ!」この肥つちよの別嬪は、いかにも腑に落ちないといつた容子《ふり》をして、さう答へた。
「あなたの愛情《おなさけ》にきまつてるぢやありませんか、ハヴローニヤ・ニキーフォロヴナ!」かう囁やくやうに言ふと、祭司の息子は片手に肉入団子《ワレーニキ》を持つたまま、片手でがつしりした女のからだを抱きよせた。
「まあ、思ひがけない、何を仰つしやることやら、アファナーシイ・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ!」さう面映げにヒーヴリャは眼を伏せて答へた。「ひよつとしたら、まだそのうへに接吻をなさるつもりなんでしよ!」
「それについて、これは自分自身のことですけれど思ひきつて白状しますがね、」と、祭司の息子が言葉をついだ。「あれはたしか、まだ神学校の寄宿
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