よつぽど、じやらつきの名人らしいな! おいらなんざあ、婚礼のあと四日目になつて、やつと、死んだ嬶あのフヴェーシカを抱きよせることが出来たもんだ、それも、介添役の教父《クーム》が口ぞへをして呉れたればこそだ。」
若者は即座に、愛人の父親を御しやすしと見てとると、胸中ひそかに、如何にして彼を懐柔すべきかについて、思案を凝らしはじめた。
「お父《とつ》つあん、お前《めえ》さんはおいらを知りなさるめえが、おいらはひと目でお前《めえ》さんがわかつただよ。」
「それあ、わかりもしただらうがね。」
「なんなら名前から渾名《あだな》から、何から何まで、ひとつ言つて見せようか。お前《めえ》さんの名前はソローピイ・チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークつていひなさるんだらう。」
「うん、そのソローピイ・チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークはおらだよ。」
「まあ、よつく見ておくれよ、このおいらが分らねえのかなあ?」
「うんにや、どうも見憶えがねえだよ。さう言つちやあなんだが、生涯のあひだに会つて来た人間の面相を、いちいち憶えてなんぞゐられるこつてねえからなあ!」
「しやうがねえなあ、ゴロプペンコの忰を憶えてをつて貰へねえやうぢやあ!」
「そんなら、お前《めえ》は、あのオフリームの息子けえ?」
「でなくつて誰だといひなさるだね? 悪魔ででもなきやあ、その当人にきまつてらあな。」
そこで、ふたりは帽子をかなぐりすてて、接吻をしはじめたが、われらのゴロプペンコの忰は早速その場でこの新らしい友を攻め落さうと決心した。
「ところで、ソローピイのお父《とつ》つあん、そうらね、このとほり、おいらとお前さんの娘さんとあ、お互ひに好いた同士になつて、もう一生涯、離れようにも離れられねえ仲になつちやつたんだがね。」
「そいぢやあ、何かい、パラースカ、」と、笑ひながら娘の方へ向きなほつて、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークが言つた。「ほんとに、もう何かい、その、なんだ……よく言ふ、ひとつ草を喰《は》まうつちふやつか! どうぢや? 手を拍つことにするだか? うん、よかつぺえ、それぢやあ、ほやほやの花聟どん、お祝ひに一杯やらかすことにすべいか!」
そこで三人は打ちそろつて、名の通つた市場の料理店へ入つて行つた――それは猶太女の出してゐる天幕店で、そこにはいろんな形の罎に入
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