しに来やがつたんだ? さあ出て行け、このどん百姓めが、とつとと出てうせやあがれ!』つてんで……実際の話だが……。いや、何も言ふがものはない! まつたく、このわしにとつては、広い世間さまへ顔出しをするよりは、年に二度*ミルゴロドへ出むく方がよつぽど安易《らく》なんで、ところが、そのミルゴロドの地方裁判所の監督書記にも、あすこの偉い和尚にも、もう五年このかた頓と会はないやうな次第でな。――したが、いつたん顔を出したからには、泣いても笑つても一通りの弁疏《いひわけ》はしておかずばなるまいて。
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ミルゴロド 小露西亜ポルタワ県下の小都会。ドニェープルの支流ホロール河の沿岸に位し、『ディカーニカ近郷夜話』に次いでゴーゴリが書いた著作集『ミルゴロド』は、この地名を採つて標題としたのである。
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さて、親愛なる読者諸子よ、――いや飛んでもないことを申して御免なされ、(若しかしたら、こんな蜜蜂飼風情があなた方にむかつて、まるで自分の仲人《なかうど》か教父にでも話しかけるやうな、不躾けな物の言ひ方をするのをさぞかし御立腹になるかもしれませんが)――われわれの部落《むら》では昔からのならはしで、野良仕事がすつかり片づくといふと、待つてゐたとばかりに百姓たちは長の冬ぢゆう、のうのうと体を休めるために煖炉《ペチカ》の上へ這ひあがり、手前ども同業者仲間はめいめいの蜜蜂を暗い土窖《つちむろ》へかこふのぢや。その頃になると、もう空には一羽の鶴も姿を見せず、枝には梨の果《み》ひとつ残つてはゐない。が、その代り、夕方にさへなれば必らずどこか往還のはづれに灯影がさして、笑ひ声や唄声が遠くまでも聞え、*バラライカや、時には※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]イオリンの音までが漂うて来る。がやがやといふ話声や騒々しい物音が伝はつて来る……。これがわれわれ仲間の所謂※[#始め二重括弧、1−2−54]夜会※[#終わり二重括弧、1−2−55]なんでな! まあ言つて見れば、あなた方の舞踏会に似たやうなものではあるが、さうかといつて、まるきり同じものだとも申しかねる。あなた方が舞踏会へお出かけになるのは、いはば足をふらふらさせたり、口に手をあてて、そつと欠伸をなさらうために他ならないが、われわれの方はさうではない。てんでに紡錘《つむ》や麻梳《あさこ
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