てをり、他方には藁小屋があるのだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]うん、鋤を持つて来たのは、もつけの仕合せぢやつたわい。そら、あそこに小径があるぞ! ほら、塚もある! あそこに木の枝が載つとるぞ! それ、それ、火がとぼつとるぢやないか! どうか間違へまいもんぢやぞ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 彼は鋤を振りあげて、まるで瓜畑へ闖入した野豚に一撃を喰はせようとでもするやうに、こつそり走り寄つて、塚の前で立ちどまつた。火は消えて、塚の上には草に蔽はれた石が一つあるだけだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]この石を持ちあげにやならんて!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう考へた祖父は、四方からその石のまはりを掘りはじめた。それがまた、恐ろしく大きな石だ! しかし、うんと足を地面に突つ張つてそれを塚から押しこかした。と、その石はごろごろつと音を立てて谷底へ落ちて行つた。※[#始め二重括弧、1−2−54]そこがお主の行くところだよ! さあ、これで仕事が楽になつたわい。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 ここで祖父は手を休めて、嗅煙草入を取り出すと、拳の上へ煙草をばら撒いて、今しも鼻へ持つてゆかうとした時だつた、突然、彼の頭上に当つて、※[#始め二重括弧、1−2−54]くしよつ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、あたりの樹木が揺れ動いたくらゐ、ひどい嚔みをした奴がある。そして祖父の顔いつぱいに、鼻汁がひつかけられた。※[#始め二重括弧、1−2−54]くしやめが出かかつたら、せめて、わきでも向きやがれ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう言つて祖父は眼を拭つた。あたりを見まはしたが、誰もゐない! ※[#始め二重括弧、1−2−54]いや、悪魔の奴あ煙草が嫌ひぢやと見える!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼は嗅煙草入を懐ろへしまつて、鋤を手に執りながら言葉をつづけた。※[#始め二重括弧、1−2−54]馬鹿な奴ぢやて、こんな良い煙草は、彼奴の親爺も祖父《ぢぢい》も嗅いだことはなかつたらうに!※[#終わり二重括弧、1−2−55]そこで、また、彼は掘りにかかつた――土はやはらかで、鋤が楽にとほると、何かカチッと音がした。土をのけて見ると、そこに壺が一つあるのだ。
「ああ、奴さんここにござつたのかい!」と、祖父は壺のしたへ鋤を突つこみながら叫んだ。
「あ
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