といつて彼女に話しかけたものか、さつぱり分らない。よく見ると、妻の顔が鵞鳥の顔をしてゐる。傍らを見ると、もう一人の妻がゐて、やつぱり鵞鳥の顔をしてゐる。また反対側を見ると、そこにも妻が立つてゐる。うしろを向くと、そこにも妻が一人ゐる。そこで彼はすつかりおびえあがつてしまひ、一目散に庭へ駈け出した。ところが、庭は蒸暑いので帽子を脱ぐと、帽子の中にも妻が一人坐つてゐる。汗がタラタラと顔を流れる。ハンカチを取り出さうとしてポケットへ手を突つ込むと、そのポケットの中にも妻がゐる。耳に詰めてあつた綿を取ると、そこにも妻が坐つてゐる……。そこで不意に、彼は片足でピョンとはねあがつた。すると、叔母さんが彼を見ながら、真面目くさつた顔つきで、※[#始め二重括弧、1−2−54]さうさう、はねあがらなきや駄目だよ。今ぢや、お前さんはもう女房持ちだから。※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ。彼が傍へ近寄つて見ると、叔母さんだと思つたのが、もう叔母さんではなく、鐘楼になつてゐる。そして気がつくと、誰かが彼を綱でその鐘楼へ釣りあげようとしてゐる。※[#始め二重括弧、1−2−54]誰だ、俺を釣りあげようとし
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