片仮名ヰ、1−7−83]ッチは不在だつた。老婆が二人の令嬢と共に客を食堂へ迎へ入れた。叔母さんはさつさと大股に進み寄るなり、非常に素早く片方の足をにゆつと前へ踏み出して、声高らかに次ぎのやうな挨拶をのべた。
「奥様、かうして直々お目通りをして御機嫌を伺ふことの出来ましたのを何より喜ばしく存じます。それに、先だつてはまた、甥めが、お手厚い御歓待に預りまして、有難うございました。イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはそれを大変自慢に致してをります。時に、奥様のお宅の蕎麦の出来栄は大層お見事でございますこと――こちらへ上ります道すがら拝見いたして参りましたよ。いつたい一町歩から束《そく》にしてどの位お収穫《とり》になりますか、ひとつ承はり度う存じますが。」
 この挨拶に次いで、先づ一同の接吻が交はされた。客間に通つてから、老主婦は初めて口を切つた。
「蕎麦のことはいつかうに存じませんので。さういふことはグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチに委せきりでございまして、もう妾は疾《とう》からその方のことには手出しをいたしません。それに出来もし
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