たげて、一と目みれば、梨入りの濁麦酒《クワス》はどうして造るべきか、甜瓜がどの位に大きいか、庭を駈けまはる鵞鳥がどんなにふとつてゐるかが、直ちに読み取られるやうな顔つきをして見せた。
 もう日暮になつてから、やつと、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは暇を告げることが出来た。もちまへのおとなしさにも似ず、泊つて行けと言つて、たつて引き止められたにも拘らず、彼は帰らうといふ初一念を貫いて、つひに帰途についたのであつた。

    五 叔母の新らしい計画

「さあ、どうだつたえ? あの老悪党《ふるだぬき》の手から、首尾よく証文を引き出すことが出来たかえ?」と、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの顔を見ると同時に、叔母さんはいきなりかう訊ねた。彼女は辛抱がしきれずに、もう幾時間も前から玄関へ出て甥の帰りを待ちあぐねてゐたが、たうとう我慢がならなくなつて、門前まで飛び出してきてゐたのだ。
「いいえ、それがねえ、叔母さん、」と、馬車を降りながらイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは答へた。「グリゴーリイ・グリゴーリエ※[
前へ 次へ
全71ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング