ちまへの小胆にも拘らず、無駄に時間をつひやすことなく、てきぱき事を運ばうと、肚を決めた。
「叔母がその……私に申しますには、何でも亡くなられたステパン・クジミッチの御遺言書とかが、その……。」
 この言葉にグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチのだだつ広い顔がどんな不愉快な表情を現はしたかは、ちよつと形容に困るくらゐである。
「いや、とんと仰つしやることがよく聴えませんよ!」と、彼は答へた。「お断わりしておかなければなりませんが、私の左の耳へあぶら虫が這入りましてね、(あの碌でなしの大露西亜の髯もぢや先生たちと来たら、もう、家ん中ぢゆう、あぶら虫でうじやうじやさせてをりますからね)その気持の悪さ加減といつたら、とても筆紙に尽すことは出来ません。いやどうも、擽つたくつて擽つたくつて。しかし、さる老婆がごく簡単な方法で癒してくれましたよ……。」
「私がお話をいたしたいと思ひますのは……」と、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチがわざと余所事に言ひ紛らさうとするのを見て
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