へ行つても食へつこない。それはさて、何気なくその肉饅頭《ピロシュキ》の下敷にしてある紙を見ると――なにか文字が書いてある。へんに思ひあたる節があるので、小卓《こづくゑ》のところへ行つてしらべて見ると、どうぢやらう――くだんの帳面が半分くらゐの丁数になつてをるではないか! あとは残らず婆さんめ、肉饅頭《ピロシュキ》を焼くたんびに、引きちぎつては使つてしまひをつたのぢや! だが、どうしやうがあらう、まさかこの老齢《とし》で、掴みあひができるではなしさ! 去年のことぢやが、たまたまガデャーチをとほつたので、まだその市《まち》へさしかかる前に、この一件についてステパン・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチをたづねることを忘れまいとて、わざわざ*忘れな結びをしておいたほどぢや。それだけならまだしも、市《まち》なかでくしやみが出たら、それをしほに必らずあの仁のことを想ひ出さうと、しかと我れと我が胸に約束しておいたのぢやが、それもこれも無駄ぢやつた。市をとほりながら、くしやみもしたし、ハンカチで鼻汁《はな》もかんだけれど肝腎のことはすつかり忘れてしまつてゐたのぢや。で、やつと気がついた
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