ズキ》を嗜まず、ただ午餐《ひるめし》と晩餐《ばんめし》の前に火酒《ウォツカ》を一杯やるだけで、マヅルカも踊らなければ、※[#始め二重括弧、1−2−54]銀行《バンク》※[#終わり二重括弧、1−2−55]もやらなかつたので、自然、いつも独りぼつちでゐる他はなかつた。そんな訳で、他の連中がそれぞれ土地の馬を雇つて小地主の家々へ出かけて行くやうな時にも、彼は自分の室にぽつねんと坐つて、ひとり、善良で、もの静かな気性に適つた所作に耽るのが常で、釦を磨いたり、占ひ本を読んだり、部屋の隅に鼠罠を仕掛けて見たりしたが、最後には、軍服を脱ぎ棄てて、寝台の上に横たはるのが落《おち》であつた。
その代り聯隊ぢゆうにイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチくらゐ几帳面な者はなく、また自分の分隊の指揮が非常に良く行き届いてゐたので、中隊長はいつも彼を模範下士に選んだ。そんな次第で昇進もはやく、旗手の地位を贏ち得てから十一年たつて、少尉に任命された。
この間《かん》に母の亡くなつた知らせを受け取つたが、母の親身の妹で、彼の幼年時代に乾梨《ほしなし》や、非常に美味しい薬味麺麭などを持つて来
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