男が馬に乗つて飛び出すなり、妙にぐるりを見まはしながら、まるで誰か自分の後を追跡する者がありはせぬかと眼を配るやうにして、ひどく狼狽《うろた》へながら、根限《こんかぎ》り馬を駆り立てて走り出した。それは、くだんの魔法使だつた。何を彼はかくも周章てふためいたのであらうか? かの山の上の不思議な騎士を一目みると、驚ろくなかれ、それは彼が、何時か占ひを立ててゐた折、不意に彼の眼前に現はれた、あの見知らぬ人物と同じ顔であつた。どうして、その顔を見ると、かくも胸騒ぎがするのか、彼は我れながら理解することが出来ず、戦々兢々として四辺を見まはしながら、薄暮が迫つて、星の輝やき出す頃まで、ひたぶるに駒を駆り立てた。やうやくのことに馬首を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]らすと、恐らく、この奇怪な出来事を悪霊の力に依つて判じようと考へたのであらう、彼は我が家を指して帰途に就いた。やがて、途中にある支流の小川を飛び越えようとした時――全速力で駈けてゐた馬が不意に立ちどまつて、彼の方へ首を捩ぢむけると、奇態なことに、笑ひ声をあげた! そして白い歯並が闇の中で光つた。魔法使の頭髪《かみのけ》は逆立つた
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