あらぬ方を見据ゑてゐるのだ。夕映が消えて、まだ星も見えず、月もなく、森をとほるに怖い時刻で、樹々に身を擦り小枝を掻き分けながら、洗礼を受けずに死んだ子供たちが、泣いたり笑つたりして、道や広い蕁麻《いらくさ》の茂みの中を玉のやうに転がつてゆく。ドニェープルの波の間からは、身投げをして死んだ娘たちが、列をなして浮かび出る。青い髪はおどろに両の肩へふりかかり、滴くがぽたぽたとその長い髪をつたつて地上へ落ちる。処女《をとめ》は水に濡れて、まるで硝子の肌着を著けたやうに光つてゐる。唇には怪しげな微笑が宿り、頬は情熱に燃えて、両の眼が人の心をそそる……こんな娘から恋をしかけられ、接吻をされたなら……。早く逃げよ、洗礼を受けた人たち! 彼女の唇は氷で、寝床は冷たい水中だ。彼女は君を擽《くすぐ》つて河の中へ引き込むぞ。だが、カテリーナの眼には何も映らなかつたし、正気でない彼女には水精《ルサルカ》など怖くはなかつた。彼女は夜更まで、刀を握つたまま、父を捜して駈けまはつた。
 或る朝はやく、赤い波蘭服《ジュパーン》を著た、堂々たる恰幅の客が訪ねて来て、ダニーロの安否を問うた。一部始終を聴くと、彼は泣き腫し
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