でもさせてお呉れよ、せめて顔だけでも拝ませてお呉れよ!」
「だあれもいけないつて言やしないわ。勝手に話すなり眺めるなりしたらいいぢやないの!」
 そこで娘は腰掛に坐ると、またしても鏡を覗きながら、頭の編髪《くみがみ》をつくろひにかかつた。彼女は頸筋をのぞいたり、絹絲で刺繍《ぬひ》をした肌着を眺めたりしたが、微妙な自己満足のいろが、その口もとや、瑞々しい頬のうへにあらはれて、それが両の眼に反映した。
「おいらにもお前《めえ》のそばへ掛けさせてお呉れよ!」と、鍛冶屋が言つた。
「お掛けなさいな。」さう、口もとと、満足さうな両の眼とに同じやうな情を湛へながら、オクサーナは答へた。
「ほんとに美しい、いくら見ても堪能の出来ないオクサーナ、ちよつと接吻させとくれよ!」思ひ切つてかう言ふと、鍛冶屋は接吻するつもりで女を自分の方へ引きよせた。しかしオクサーナは、もう鍛冶屋の唇とすれすれになつてゐた頬を、つとそらして、男を突きのけた。
「まあ、この人は何処までつけあがるのだらう? 蜜をやれば、匙まで呉れつて、あんたのことよ! あつちへ行つて頂戴。あんたの手は鉄より硬いわ。それにあんたは煙臭《きなくさ》
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