らあなたの真実の兄であるらしいということが判ったのです。――さあ、そうなってみると、その友達は途方に暮れてしまいました。なぜといってもしそんなことをうっかり兄さんに打ち明けようものなら、兄さんは失望のあまり、人生を呪って必ずや我身を亡ぼしてしまうに違いないと思ったからです。いっそ、何もわからずに、知らないまんまで、兄と妹とがやみくもにうまく結婚してしまえば何事もなかったろうが、と今更悔んでも追っつきません。到頭その友達は可哀相なことにも、自責の念に堪えかねて、或る夜のことどこかへ逃亡してそれっきり行方も判らなくなってしまったような始末です。」
「…………」
「けれども、一旦私立探偵がそうと嗅ぎつけた以上、たといその友達が姿をくらましたにせよ、そんなことをすればするだけ、いつまでもその秘密が洩れないで済む道理がありません。――或る晩、倶楽部で酔っぱらいの友達同士が、声高らかにその内しょ[#「しょ」に傍点]話をしゃべっているのを私は――そうです、私は、聞いてしまいました。もちろん私たるものの驚きはたとえるものもありません。一体こんな残酷な運命の悪戯を、果してわれわれはそのまま許容してしまっても差閊えないものであろうかと、私は嘆き、悲しみ、憤りました。だが、いずれにしても、こうした事実はお互のために極めて判然とさせなければならないと考えまして、それ以来あらためて自分の手でいろいろ調査をしてみました。そして到頭、今朝になって、その動かすべからざる調査の結果を知り得たのです……」
「え! なんでございますって※[#疑問符感嘆符、1−8−77] それでは、あなたは、もしや……」女優は感激のあまり頭を抑えて立ち上がりました。「若しや……あなたがそのお兄さんではないのですか?……」
「そう、そう……ですけれども、ああ、それが、それが……」青年はすっかり胸をつまらせて、息苦しそうにどもりました。
「まあ!――」女優は、いきなり青年の肩をしっかりとかき抱いて、幾度も幾度も接吻しながらさて小さい声で囁くようにこういいました。「まあ!――嘘吐き! あんたって人はなんて嘘吐きなの! あたしには、兄さんなんて、厄介な者はたった一人だってありゃしなくってよ!……」
青年は抱かれながら、おろおろ声で弁解しました。
「だって僕は、――僕のいおうとしたのは、その調査の結果が、やっぱり僕とあなたとは兄
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