」とミハエルは答えた
――博覧会もあと一週間きりですが、運が悪いとこれっきり晴れずにしまうかも知れませんな。」
――ああ!」ミハエルは、何杯目かのグラスを一気に飲み干して、大きな溜息を吐いた。
――で、結局あなたの地上の宝とやらは見つからないのですか?」と私は切り出した。
するとミハエルの眼に、急に大きな泪が溢れて、それが白い滑かな頬を伝って、茫々たる髯の中へ流れ込んだ。
――酔っぱらいましたね。」と私は笑った。
――酔っぱらいました、そこで私は私の地上の宝について、いよいよあなたにお話して差し上げようと思うのです。」と彼は云った。
――有難う。もう一杯おあがりなさい。」
私は彼のグラスへ新しくウイスキイを注がせた。
――これは恋の話です。」と彼は云った。「地上の宝とは、それこそ天地に掛け更えもない、私のたった一人の恋人なのです。」
――恋物語だったのですか――なんとねえ!」と私は少からず面喰った。
――神様の啓示です。聞いて下さい。……もう殆ど三月も前のことですが、故国から訪ねて来た友達を案内して、瀬戸内海の方へ見物旅行に出かけるつもりだったので、M百貨店へ行っ
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