。
「どうしたのさ※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「こうなれば、ちよっとお父さんみたいじゃなくなるだろう。……今日お前を連れて遊びに行ったところで、お前を捨ててしまうつもりなんだよ。うまく考えたもんだろう……」
父はそう云って笑った。
「嘘だい!」と私は寝床の上へ身を起しながらびっくりして叫んだ。
さて、父にせかれて仕立下ろしのフランネルの衣物に着換えた私は、これも今日はじめて見る香《にお》い高い新しい麦わら帽子をかぶって、赤色のネクタイを結んだ父と連れだって家を出た。
はつ夏の早い朝の空は藍と薔薇色とのだんだらに染まって、その下の町並の家々は、大方未だひっそりとして眠っていた。
停車場へ行く人気のない大通りを父はステッキを振りまわしながら歩いた。
「誰にも出遇わなくて幸だ。」と父は独言を云った。
「なぜ?」と私はきいた。
父は返事をしなかった。
だが、その代りに父はまた独言を云った。
「ほんとにいやな息子だ。十ちがいの親子だなんて! ああ俺も倦き倦きしたよ。」
「なぜ!」私は父の顔をのぞき込んできいた。
父は、併し、私の声が聞こえなかったものか、黙ってにやにや笑っ
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