来た。
[#ここから引用文。本文より一字下げ。行あけなし]
僕の好きな人――僕はあなたが好きです。けれども、それはいけない事なのだそうです。あなたのお父さんもお母さんもそう仰有って僕をお叱りになったし、また僕のお父さんもお母さんもそう云って僕を叱りました。
僕も明日、イギリスの学校へ入るので、ここの家に、そしてあなたの二階の窓にもお別れします。
もう一生会えないかも知れません。
あなたが何時迄も丈夫でいられるように神様へお祈り致します。さ よ な ら
それから、うちの赤い煙突は、これから後、また煙が出なくなるかも知れませんけれども、心配しては駄目ですよ。あんな小っちゃな煙突が、あなたとどんな拘りがあるでしょう。ねえ、今日からそんなつまらない事は忘れておしまいなさい。きっと忘れてしまわなければいけませんよ。
[#ここで引用文終わり]
彼女は四つ折りの白い厚い紙に書いてあるその文句を読んでいる中に、段々胸の中に大きな穴が開いて、そしてその奥から何時ものとはまるで異う泪が湧きあふれて来るのを感じた。
間もなく、青年の言葉通り、赤い煙突は再び煙を吐くことがなくなった。どうしてだか彼女には
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