》専門かと思っていたら、いや中々どうして! 素晴らしく深刻な科白《せりふ》を聞かせますねえ。』
『いいえ。本当になさらないのも御尤もですけれど、今も申し上げた通りこれは決して冗談や洒落じゃないのです。』
『本当にするもしないも――君……』
と、云いかけたが西村はこの時始めて清水の眼に宿る満更芝居でもなさ相な、ただならぬ暗いかげに気がついてハッとした。
『そう――やっぱり比処からお話しした方がいい――西村さん。あなたは坊城君から八日の日に撮影場《スタジオ》で撮影技師《カメラマン》の中根が誤って射殺されたと云う話をお聞きになりはしませんでしたか。』
『彼とはしばらく会いませんから聞く機会もなかったですが、新聞でみましたよ。何とか云った女優が、撮影中に真っ向から撃ったんですってねえ。』
『そうですよ。(嘆ける月)の撮影中でした。丁度その女優が――松島順子が、大写《クローズアップ》でカメラに向ってピストルを射つところだったです。射つ当人は勿論のこと、その場に居合せたほどの総ての人、むろん僕もおりました、誰だってそのピストルに実弾が込っていようなんて思いもかけやしませんでした。ドオン! と云う
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