が転がり込んでいて、彼はおそろしくのんだくれではあったけれども、性質はその呼名の如く非常にお人好しの愛すべき男なのであって、地理に暗い言葉の不自由な僕を、妹の情夫のやっぱりやくざ者であるジャップの僕を、毎日親切にさまざまの遊び場へ、地下室に大きなばくち[#「ばくち」に傍点]場の開けている酒樓や、阿片窟や、それから美しい鶏《チー》たちの群がっている彼女らの巣窟へと連れて行ってくれるのでした。
するとそのうちに、ある日の事、僕たちは――いや、僕は、遂にある恐しい秘密倶楽部の倶楽部員になることとなってしまったのです。勿論、やっぱりショコラアが引っぱって行ったのですが、ショコラアはもとっからそこの倶楽部員だったのですよ。それは、オールドカルトンとかニューカルトンとかカフェマキスィムとか云ったたぐいの家々と共に上海一流の酒樓であるところの、「上海の赤風車亭《ムーランルージュ》」と呼ぶ家の地下室にあった倶楽部なのです。僕ははじめて其処に入る時は――いや、入った当座しばらくの間も、それがそんな恐るべき倶楽部であろうなぞとは夢にも思っていませんでした。が、しばらく経って後そうと気がついた時はすでに遅
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