ご多聞に洩れず、何れあじけない旅烏とならなければなりませんでした。そして方々と何れもあまり思わしくない興業を打って廻った末に、思い切って、海を越えて上海くんだりまで落ちてみる事になったのです……所が、上海でもまた、初手からお話にならないひどい不入りでして――もともと、殆ど西洋と云ってもいい位なこの都で怪しげなジャップたちが、怪しげなオペレットを、しかも日本語で演って人気を取ろうなんて、実際、今思えば虫のいい限りなのですが――客席は文字通り数ぞえる程の頭数で、とうとう、最初は四馬路の緑扇座《グリーンファンシアター》どころで開けていたのが、ひと月と経たない中に新世界のバラエテーに迄おち込んでしまって、そしてそのあげくが遂に、この知らぬ他国で解散と云う悲運に到達したのです。
それでも、大ていの連中はさまざまなやりくり[#「やりくり」に傍点]をして、裸同様な身になりながらもどうやらみんな日本に帰って行った様でした――が、不仕合せな僕だけは、(――併し、勿論その当時は決して、そうは思ってもいませんでしたが)不仕合せにも、僕の泊り合せていた旅籠の、それは霞飛路《アヒロー》にあったのですが、その旅
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