殺されてからの後の推理や観察は極めて丁寧に、綿密に、一々ご尤にやっては呉れるでしょうがね。生きている人間、つまり、殺されるかも知れない人間にとっては、甚だ心細いものにすぎませんのでねえ……』
『僕は何時だったか、坊城から、君があのアメリカ帰りの監督の狭山氏と何か女の事から面白くない争いをしたって話を聞きましたが――何か、そんな風な、他人からはげしい恨を抱かれる様な覚はありませんか。』
『はッはッはッ、狭山ですか。なる程あいつなら僕を殺し兼ねますまいよ。何しろすさまじい権幕でしたからねえ――事の因《おこ》りってのは、何ァに大した事じゃありません。大体あの狭山って男はひどい好色漢でしてね。撮影所に出入する目星い女優には誰彼の差別なく、働きかけ[#「働きかけ」に傍点]なきゃ――と仲間の連中は云いますがね。つまりもの[#「もの」に傍点]にしなけりゃ承知しない、と云った風で――まだ、彼の歓心を買っておかないと如何なにすぐれたいい女優でも決して出世が出来なかったのです。ところが、一人、弓子って云う所長のお声掛りで一番年も若いし一番美しい娘がいて、これがまた非常に見識が高くて、どうしても狭山の意に従わなかったのです。狭山は躍起となって持前の蛇の様にねちねちした性分で、愈々しつこく弓子にまとわりついて行ったものです。狭山のこの卑しいやり口を兼ねてから癪に障っていた僕は、ここで到頭堪え切れなくなって、あっさりと弓子を横取りしてしまいました――何も、決して僕自身、弓子に如何のって気はなかったのですがね――そしてあげくに、僕は或る日狭山を皆の前で散々っぱら遣っ付けてしまったのですよ……そうそう、その為に到頭い堪まらなくなって協会を脱退する時、彼は、「清水の野郎奴! 俺はあいつの首っ玉へ何時かは必ず匕首《どす》をお見舞申してやるぞ!」って凄い捨てぜりふを残して行ったそうです……』
『フム。では狭山氏の事は勿論警察に云ってあるでしょうね。』
『ええ。一応はそう云っておきましたが――併し、悲しい事には、西村さん。僕の命をねらっている奴はたしかに狭山ではないのですよ。そして、また、もし狭山であってくれたなら、僕は何もこれ程の騒ぎをせずともすみましたろう……』
『如何して曲者が狭山氏でないと云う事を君には断言が出来るのですか。もちろん何かしっかりしたお心あたりでもあって仰言るのでしょうね。』
『そ
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