かったし、また、もはや阿片や酒毒のおかげで可成りにちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]な、おぼつかないものに成っていた僕の頭は、そんな恐ろしい秘密結社になぞ加入した事に対して、妙な事にも、返ってしびれる様な淡い快さ――ひょっとしたら感傷的な、快さを感じていたらしかったのでした。併し、その倶楽部は恐しいと云っても決して見境もなく無闇矢鱈と恐ろしい事を企てるのではなくて、ただ倶楽部で決められた則《おきて》をやぶった者に対してだけ少しの容赦もなくその法外にきびしい制裁を下すと云うのであって、彼等倶楽部員は皆、極端なる、「不正を悪くむ紳士方」であるのです。紳士方――左様、なかにはショコラアの様な水夫《マドロス》も大勢いましたが、本当に立派な上流の紳士方も沢山、それは殆ど世界中のあらゆる国籍を網羅して出入していました。
そしてその倶楽部で、「不正を悪くむ紳士方」の毎日やっておられる主な仕事は、ばくち[#「ばくち」に傍点]、「麻雀」と呼ぶばくち[#「ばくち」に傍点]なのだから面白いではありませんか――僕は間もなく、ショコラアに連れられることなくして勝手に、その薄ぐらい倶楽部の地下室に入り浸って、麻雀に時の過ぎるのも忘れ果てているようになったのでした。
で、もうこの頃はすでに、悪魔の黒犬は僕の背中に噛みついていたのでした。と云うのは、僕たちは毎日々々麻雀をやってお互に、一瞬にして途方もない大尽になるか、それともただ一つ、自殺だけを残して他のすべてを失おうか――と云う全くすさまじい勝負を争っていたのですが、幼い時分からそんな方にはからっきし運のなかった僕であったのに、どうしたものか、この倶楽部に入ってからと云うものは殆ど負らしい負も見ずにとんとん拍子に素晴らしい目にばかり打《ぶ》つかるのじゃありませんか。おかげで思わぬ成金になった僕は浅はかにも、こりゃ大した運が開らけて来たものだ、みんなと一緒に日本へなぞ帰らないでいい事をした――とすっかり有頂天になって喜びました。所が、だしぬけに、ここに偶《ふ》と妙な事が湧いて起ったのです……と、さて、いよいよ僕は僕の身の上にふりかかって来た忌まわしい出来事についてお話しなければならない順序となりました。
ある夜のこと――上海生活が始ってからもうやがて半年は過ぎようと云うある夜、おそくのことでした……いや、未だ宵の口だったかも知れない、それとも
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