――あら、だって、さっき電話をおかけになったでしょう。」
――電話だって? あれは君をたすけるための出鱈目さ。」
――ああら、どうして出鱈目なんか仰有るの。」
――どうしてって、その方が君のためだもの。」
――…………。」
――君の名前はなんて云うの?」
――ソノダチエ子。どうしてきくのイブカさん。」
――止したまえ! ふざけるのにも程がある。電話まで聞きのがさない。」
純良な青年の井深君は、不良少女と云うものは実におそるべきものであると感じた。井深君はそれで黙ってしまった。姿や声はこれ程よく相似ているのにも拘らず、どうして一方にはこんな末恐しい少女が育てられて来たのであろうか。外にあらわれているところが似ているように、心だって屹度、生まれた時は素直な上品な子だったに違いなかったのだろうに――井深君は境遇や周囲の不良少女に及ぼす影響に就いて、法学士らしく考えてみたりした。
――君はどっちへ帰るの。」と井深君は立止ってきいた。
――それは小石川よ、どうしてそんな判り切ったことをきくの? イブカさん……」と水兵服の少女は、もうすっかり晴れやかな様子になっていて、井深君の
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