は、いろいろの道具の整理をした。すると旻の生前使っていた書物机の中から、一通の粗末なハトロン紙の封筒に入った手紙のようなものが出て来た。
上書に、兄上様――旻。傍に「秘」としてあった。晃一は、それを片手にしてしばらく思いためらった。晃一はその儘火にくべてしまおうかと考えた。が結局、思い切って封を切った。
――兄さん。この性の悪いいたずらをゆるして下さい。兄さんがこの手紙をためらいながら封を切ったとすれば、兄さんは、本当に幸子さんや僕を愛していてくれたものと信じます。その兄さんの気持に甘えて、神かけて最後の真実をお話しします。幸子さんの愛していたのは、兄さんではなく、やっぱり僕だったのです。あの日幸子さんは、どう云うものか、ひどくヒステリックになっていて、あのきりぎしの上で僕が幸子さんを捕まえると、幸子さんは泣きながら、僕に一緒に死んでくれと云いました。
僕は、兄さんを愛しているし、それにいくら僕が永く生きられない身だからと云って、幸子さんの気紛れな感傷につけ込んで心中なんかするのは嫌だから、断然それを拒絶したのです。すると、幸子さんはいきなり何かわめいたかと思うと、身を躍らして崖
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