散っている岩の上に落ちて行った。僕はそのパジャマの袖を取って、それを崖の上に置いて、如何にもそこで幸子とお前との間に格闘でも行われたように見せかけて、その筋の発見を早めようかと思ったがなまじそんな細工をして、お前自身に第三者の介在を気付かれては却って困ると考えて、止めた。僕はそれから、綱をもとの百姓家へこっそりと返して置いて、すぐに汽車に乗って家へ帰った。停車場では降りる時も乗る時も、あらかじめ何時もの僕とは服装を更えて、黒眼鏡までかけていたので、駅員達に見咎められずに済んだ。僕は家へ帰ると、早速、幸子の名宛で別荘へ遅れる旨の電報を打った。決してアリバイにはならないけれども、稍それに紛らわしい効果を持たないでもない。そして翌日になって幸子変死の電報に接して倉皇とした風で、別荘へやって来た。ところが、お前は、殆ど意識不明な程の高熱で、呻吟していた。僕はお前が、前日縁先で、幸子と口論してその後を追ったと云う廉で、幸子殺害の容疑者として拘引されている位に考え、そうであったならば、僕はお前と幸子の関係を説明して、婉曲にお前の有罪を立証する役に立つつもりだったのだが。しかも、幸子は過失死と断定さ
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