た。……ところが、やがてお前の病気が重って、幸子は泊りがけで看護に行き度いと云い出した。僕は直ぐに賛成した。僕は女中の一人をスパイに使ってお前達を見張らせた。すると果せる哉、どうやらお前たちが人目をしのんで、接吻したり抱擁し合ったりしているらしい気配があると云う報告が来た。もとより、これがお前の仕組んだ芝居で、可哀相な幸子はただ死にかけたお前に対する憐憫《あわれみ》から心にもない一役を演じたに過ぎないなぞとは、知るべくもなかったのだ。僕は、自分でじかに、お前たちの不仕だらを目撃したいと思った。そこであの日は金曜日だったが、わざと誰にも知られないようにして一日早く出かけて来た。僕は先ず、お前の病室や裏庭のよく見晴らせる松林の中に入って、そこから双眼鏡で様子を窺った。折よく庭さきと縁の上とで親しそうに話し合っているお前たちの姿が映った。お前たちは、やがて何か一口二口云い合いをしたかと思うと、矢庭に幸子が走り出した。お前もあわただしくその後を追った。幸子は裏木戸を開けて、僕の隠れている松林へ向って一散に走って来た。僕は、お前たちに見つからないように素早く松林の奥深くかくれた。ところが、しばら
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