十年後の映画界
渡辺温

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)酒場《バア》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)「|騒音と煙《ショル・ウント・ラウフ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+石」、324−13]
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 一千九百三十九年一月×日
 街裏の酒場《バア》「|騒音と煙《ショル・ウント・ラウフ》」の一隅に於て、酔っぱらいの私がやはり酔っぱらいのオング君を、十年振りに見出したと思いたまえ。オング君は、一昔前と変らぬリボンをネクタイに結んだ懐しい姿で、赤ラベルの安|三鞭酒《シャンペン》を煽りながら、私に呼びかけたのである。
『やあ、新年お目出度う。……久しくお遇いしませんでしたが、髭なんぞ生やして、随分お年を召されたようですね。今何をしておいでですか? そう、やはり市役所の方へお勤めなのですか? 奥さんは、今度こそ、もうおもちでしょうな? それはそれは。……で、僕ですか? 僕は活動写真業です。ほら、お互に末だあまり年をと
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