た。
『どうしたの? コリス?――』
コリスと云うのは希臘《ギリシャ》語で、その昆虫の名前だと、或る大学生が何時かエミ子に教えてくれたのです。
『違うよ。ウイスキイだよ。頭が、ウイスキイなんだってば……』『まあ、本当だわ。ぷんぷん――迚も、景気のいい香《におい》よ。でも、何だって今時分酔っぱらっちゃったの。あんたの頭?』
エミ子は兎も角、タオルで、ゴシゴシと旦那様の頭をこすってやりました。
『オウ・デ・コロンをつけたんだよ。四七一一番のオウ・デ・コロンはアルコオルがうんと入っていて、古くなるとウイスキイに変質するって話でも、聞いたことあるかい?』
『何を云ってんの、莫迦々々しい! あたしが、今朝わざと取り更えて置いたんじゃありませんか。あんたが、いくら不可《いけ》ないって云っても、あたしのオウ・デ・コロンをフケ取りの香水の代りに使うから、懲しめのためにやったの。ウイスキイに両替すれば、勿体ないってことがあんたにも解ったでしょう。いい気味だわ。』
『畜生! 不礼者《ぶれいもの》!』文太郎君は、タオルをかぶった儘頭をふりたてました。
『そんなに憤るもんじゃないわ。今日は、だって、四月一
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