であろう?……それにまた僕は実際君と一時親交のあった多くの青年紳士や貴婦人達が何れも同じように世にも不幸な破滅を遂げたことを知っている……』

 13[#「13」は縦中横]

『……僕には君の真実が解らない。僕が君の魂を見たい。』と画家は云った。『僕の魂を見る※[#疑問符感嘆符、1−8−77]』とドリアンは呻いた。『そうだ。併し、それは神様でなければ出来ないことだ。』と画家は愁しげに云った。鋭い侮りの笑い声がドリアンの唇から洩れた。『君は今晩そいつを見ることが出来るよ。僕は君に自分の魂を見せてやろう。』『ドリアン、君は何と云う恐しいことを云い出すのだ!』と画家はひどく驚かされた。『いいから僕について二階へ来給え。僕の今迄の一切を記した日記がしまってあるのだ。』二人はそこで足音をひそめて真暗な二階へ上って行った。仄暗いランプの光は壁や階段に奇怪な影を浮かせた。窓は夜風に鳴っていた。『さあ、うしろの扉を閉め給え。』とドリアンは古い部屋の冷たい夜気に肩をふるわせながら云った。
 画家は訝しげに部屋の中を瞶めた。埃にまみれた椅子や机や空になった本函や色褪せたフランダース風の壁掛なぞの間に混って
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