しまいたかった。
 私は一人でじっとしていることがやり切れなくなって、そこで姉を揺り起こした。
 ――姉さん、ごらんなさい。あの雲の中にそびえている大きな建築を。」
 私は窓を開け放して、姉に遙かの町の景色を見せてやるのであった。
 ――僕は、いまに、あれよりももっと立派な大建築をこしらえて、姉さんを住まわしてあげますよ。」
 すると姉は首を上下にうなずかせながら、手真似をして答えた。
 ――バカヤロウ、アレハ、カンゴクジャナイカ!」
 ――ちがいますよ!」と私はびっくりして答えた。
 ――オマエハ、バカダカラ、シラナイノダ。ワタシハ、オオキイウチハ、ミンナキライダヨ。」
 ――では、みんな壊してしまいましょう。」と私は昂然として云った。
 ――アンナ、オオキイウチガ、オマエニ、コワセルモノカ、ウソツキ!」
 ――ダイナマイトで壊します。」
 ――ソレハ、ナンノコト?」
 ――薬です……」
 私は、黒い本を開いて読み上げた。
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「ニトログリセリン    〇・四〇
 硝石          〇・一〇
 硫黄          〇・二五
 粉末ダイアモンド    〇・
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