い事実を裏書きしていないとも限らない。……併し、この想像は少しばかり甘すぎるかな。自分で罪を犯しておきながら、かまえて訝しまれるような態度をとり繕わずにいると云うことは洵《まこと》に道理に合わない。やはり女に対する疑を――若しも運悪く他殺と知れた時に、女に懸かる疑惑を出来るだけ外らそうとするための工夫なのであろうか?……うっかりしてはいられないぞ。――と。
若いこの刑事は上役や同僚を出し抜き度い功名心で胸をふくらませた。
刑事は警察へ帰ると早速ピストルに就いて検べた。
柄の底の部分に僅ばかり白い粉がついている。刑事は会心の笑を洩らした。
(――犯人が最初に投げ棄てた拍子にあの壁へぶつかったのだ)
それから指紋である。最近二人の人間がそれを掴んだらしかった。
(もちろん被害者自身と――鮮明な方が犯人だ)
ところが翌日になって、果してそれ等の指紋は小野と、美代子とに付合することが判明したのである。
4
『――まことに恐れ入りました。ピストルを小野さんの手に持たせましたのは如何にもわたくしでございます。けれども何と仰せられましても、自分で射ち殺した覚えなぞは毛頭ございません。
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