まで酒を飲んで、それからタクシイを呼んで貰って八木の家へ泊りに行ったのです。』
小野が殺されたのは十一時頃だから、葛飾の答弁は現場不在証明《アリバイ》を申し立てているのである。刑事は反証を上げなければならない。
活動写真を観て散歩したと云うのは全く出鱈目であろう。――尤も美代子は実際その二三日前に小野と一緒に××座へ見物に行って当日の番組も持っていた。だが、そんなことは甚だ薄弱な口実として利用されたのに過ぎないのだ。
ヨロピン酒場に照会してみると葛飾が来たのは、それから三十分位経って軒灯を消したのだから多分十一時半頃だろうと云う答えであった。ところで、葛飾の住居からヨロピン酒場迄の道程は電車に乗って約一時間半、だから自動車ならば三十分で充分来られるわけである。刑事は、併し、彼の自動車に乗っているところを見かけた者があると云う報告を得ることが出来なかったのだ。
刑事は已を得ず、別の方法に依った。即ち葛飾に美代子が自白した旨を告げて、彼もまた潔く自白することをすすめたのである。
『あなたがネクタイ代りに結んでいる黒いリボンが死体から発見されたのはどう云うわけでしょうか?』と真向から
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