画室へ入って参りますと恐しいことにもあの人はそこの床の上に冷たくなって死んでいたのでございます。少し離れた壁際にピストルが落ちて居りました。わたくしはありったけの勇気を奮い起こして、出来るだけ落ち着こうと力めました。わたくしは注意深く小野さんの体の周囲を探がしました。その結果、小野さんの胴衣《チョッキ》の襟とシャツとの間から三尺ばかりの細い黒いリボンを発見することが出来たのでございます。――葛飾はネクタイの代りに何時でもそんなリボンを結んで居るのでございます。……小野さんに死なれて、葛飾が犯人として捕えられてしまえば、わたくしの身の上は一体まあどうなることでございましょう。しかも、そんな怖しい過ちのもとは、みんなわたくし自身なのでございますから。……わたくしは、リボンの始末をすると同時に、ピストルを小野さんの手に握らせました。……実を申しますとあのピストルだって、葛飾の箪笥の中に何時も蔵ってあるので、小野さんのものではないのだそうでございます。それに、葛飾はインヴァネスを破って帰って参りましたが、わたくしはそれ程乱暴をした覚えはないのでございます。……ああ、けれども、わたくしはみんなす
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