。それでもなお私は変らぬ愛情をあの人の上に捧げていたのですが、その中に風の便りに、あの人がどうやらアメリカで結婚したらしいと云う噂を聞きました。――それで、私の周囲の人々は、私にあの人を諦めるようにといろいろ説いて聞かせ初めました。
併し、私はやっぱり、たとえば、ペア・ギュントの帰りを頭が白くなる迄も辛抱強く待っていたソルヴェジのように、どんなに寂しく永い間置きざりにされていようとも、一生の中には何時か帰って来てくれる日があるような気がして、甲斐なく望みをかけていました。
併しやがて両親が次々に死んで、私は本当にたった一人で暮さなければならなかったのですが、それでは余り淋しすぎたので、恰度|知己《しりあい》の貧しい学校の先生の家で、七人目の赤ん坊が生まれて、育てかねていたのを貰って養うことにしたのです。
その赤ん坊が、あなただったのです。……私はそれから何かと面倒な田舎を捨てて、あなたと二人きりでこの都へ出て来ました。
私はあなたが大きくなるにつれ、あの人を父親であるようにあなたに信じさせることに依って、段々私自身もそんな風な夢や錯覚の中でなぐさめられようとつとめました。そして、十年も
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