くにもなるんだもの。それに、この写真みたいに若い人じゃ、まるで自分の息子のような気がしてね。……』
 母親はそう云って笑った。だが、娘は、母親の若よかな靨《えくぼ》のある頬が鳥渡の間、内気な少女のように初々しく輝くのを見た。
『そうね、あたしだって、こんな若いお父さんのことを考えるのは変な気がしてよ。』
『いっそ、お前のお婿さんなら、似合いかも知れない――』
『ひどいお母さん。――でも、お母さんは、どうしてそれっきり他所へお嫁にいらっしゃらなかったの?』
『どうしてって。――お前のお父さんのことが忘れられなかったし、それにあんまり悲しい目に会うと、女は誰でも臆病になってしまうんだろうね。』
『さびしかったでしょう?』
『少しの間さ。すぐにお前が、みんな忘れさせてくれるようになったもの。……』
 母の声は草臥《くたびれ》てでもいるように聞こえた。
 娘は、若い時になら自分よりも器量よしだったに違いない面影の偲ばれる母親が、そんなに早く青春から見捨てられてしまった運命を考えて胸を窄めた。

  2

 その年の春、智子は女学校の高等科を卒業して、結婚を急ぐ程でもなし、遊んでいるのも冗《むだ
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