・ホテルへ女を買いに出かけた。その日は私共の給料日で私共は乏しい収入をさいて、月にたった一度だけ女を楽しむことにきめていたのである。
 シルクハットは果してホテルの女たちをおどろかした。私の女はとりわけ眼を瞠って、むしろドギマギしたように私を見た。彼女は一月の中に見違うばかり蒼くやつれてしまっていた。もとから病気持ちらしい彼女だったので、屹度ひどい病いでもしたのであろう。
 彼女は私と共に踊りながら、息を切らして、果は身慄いした。私はそれで、すぐに踊るのをやめることにした。小さい女は私の膝に腰かけた。
「苦しそうだね。」と私はきいてみた。
「もうよろしいの。――でも、死ぬかも知れませんわ。」女は嗄がれた声で答えた。
 中村は、なじみの男刈りにした肥っちょの娘と、独逸麦酒《ドイツビール》をしこたま飲んだあとで、アルゼンチン・タンゴを怪しげな身振りで踊っていた。その娘は眉根の※[#「山+険のつくり」、第3水準1−47−78]しい悪党みたいな人相だったが、中村はいっそそこが気に入ったと云うのであった。
 寝室に入る前に、私達はめいめい金を払う。
 私は紙入れを女の目の前で、いっぱい開けて見せ
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