情にほだされない様な女は永遠に真実の愛に祝福される機会を取り逃がす不幸せな女だ、と仰有って、しまいには泪さえ流して、あなたのために弁護なさいました。そして、挙句の果に大そう御機嫌を害ねて、到頭今日限り妾はお払い箱になってしまったのです。人の情を知らない冷酷な女だって……妾、一体、どうすればよろしいのでしょう。……』
『どうするって……』
Y君は、恥かしさのあまり、本当にこの女中の見ている前で、池の中へ飛び込んでしまいたい程だった。
『ですから、あなたが、やっぱり恋をなすっていらっしゃるのが事実なら、その相手をはっきり仰有って頂き度いのですわ。殿方からそんなに強く愛されることが、どんなに幸せか、そりゃあ、妾にしたって解り過ぎる程解って居ますわ。でも、何しろ、肝心な妾の方にはそんな心当りはちっともないのですし、ひょっとそんな闇雲な己惚れを出して、それこそ如何な辛い恥をかかなければならないかも知れないし。……それに、お嬢さまは、ああ仰有るものの、下士官が天下の名女優に恋をしていけない道理もありませんわ。』
『いやいや、飛んでもない。そんな大それた願いを、どうして僕が抱くものでしょうか。は、は、は、は……』Y君は、自分がみじめなピエロに過ぎないことを感じた。
『それでは、まさか――』娘は眼を瞠った。
『そうです、野菊のように可愛らしい娘さん。僕の想いを寄せる女が、貴女の外にあって堪まるものですか! 神かけて、嘘ではありませんよ、僕のベアトリイチェ。……ごめんなさい。何てお呼びすればよろしいのでしょうか?』
『そうよ。ベアトリイチェ。……でも、あなた、どうして妾を知っているの?』
娘は白々とアーク・ライトに濡れながら、不意に泪ぐんだ。
『初め、あなたが、窓の日覆いを外そうとしていたところを、偶然通りすがって、見そめてしまったのですよ。僕は直ぐ夢中になる性分なんです。僕は毎晩のように、あなたの夢を見て、あなたの名を――「僕のいとしい女中さん」と寝言に呼んで、隊中の者から揶《からか》われました。……』Y君は、そんな風に云いながら、娘の肩に腕を廻した。
娘は鳥渡の間、傍を向いて、まるでひどく気を悪くでもしたかのような表情を浮かべたが、直ぐに肩をゆすぶらして哂《わら》った。
『窓の日覆いを外していたの? それ、ほんとに妾だったこと? 人違いじゃなくって? 大丈夫?』
『間違いあ
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