つ迄も忘れられた儘で黒い蝙蝠傘

蛙の子がふえたこと地べたのぬくとさ

何かしら児等は山から木の実見つけてくる

船乗りと山の温泉に来て雨をきいてる

あらしの闇を見つめるわが眼が灯もる

海のあけくれのなんにもない部屋

銅銭ばかりかぞへて夕べ事足りて居る

夕べひよいと出た一本足の雀よ

たばこが消えて居る淋しさをなげすてる

おだやかに流るる水の橋長々と渡る
(をだやかに流るる水の橋長々と渡る)

空暗く垂れ大きな蟻が畳をはつてる

蟻を殺す殺すつぎから出てくる

雨の幾日かつづき雀と見てゐる

雑巾しぼるペンだこが白たたけた手だ

友の夏帽が新らしい海に行かうか

写真うつしたきりで夕風にわかれてしまつた

血がにじむ手で泳ぎ出た草原

昼の蚊たたいて古新聞よんで

人をそしる心をすて豆の皮むく

はかなさは燈明の油が煮える

刈田で烏の顔をまぢかに見た

落葉木をふりおとして青空をはく

からかさ干して落葉ふらして居る

傘さしかけて心寄り添へる

赤とんば夥しさの首塚ありけり

障子しめきつて淋しさをみたす

庭石一つすゑられて夕暮が来る

木槿が咲いて小学を読む自分であつた

藁屋根草はえれば花さく
(藁屋根草はへれば花さく)

今朝の夢を忘れて草むしりをして居た

鳩がなくま昼の屋根が重たい

マツチの棒で耳かいて暮れてる

栗が落ちる音を児と聞いて居る夜

夕ベ落葉たいて居る赤い舌出す

自らをののしり尽きずあふむけに寝る

何か求むる心海へ放つ

大空のました帽子かぶらず

仏体にほられて石ありけり
(佛体にほられて石ありけり)

足音一つ来る小供の足音

何かつかまへた顔で児が藪から出て来た

昼だけある茶屋で客がうたつてる

打ちそこねた釘が首を曲げた

烏がだまつてとんで行つた

昼ふかぶか木魚ふいてやるはげてゐる

妹と夫婦めく秋草

小さい火鉢でこの冬を越さうとする

心をまとめる鉛筆とがらす

仏にひまをもらつて洗濯してゐる
(佛にひまをもらつて洗濯してゐる)

ただ風ばかり吹く日の雑念

二人よつて狐がばかす話をしてる

うそをついたやうな昼の月がある

酔のさめかけの星が出てゐる

考へ事して橋渡りきる

おほらかに鶏なきて海空から晴れる

山に家をくつつけて菊咲かせてる

しも肥わが肩の骨にかつぐ

板じきに夕餉の両ひざをそろへ
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