が好きでありまして、海を見て居るか、波音を聞いて居ると、大抵な脳の中のイザコザ[#「イザコザ」に傍点]は消えて無くなつてしまふのです。「賢者は山を好み、智者は水を愛す」といふ言葉があります。此の言葉はなか/\うま味のある言葉であると思ひます。但し、私だけの心持かも知れませんが――。一体私は、ごく小さな時からよく山にも海にも好きで遊んだものですが、だんだんと歳をとつて来るに従つて、山はどうも怖い……と申すのも可笑しな話ですが、……親しめないのですな。殊に深山幽谷と云つたやうな処に這入つて行くと、なんとはなしに、身体中が引締められるやうな怖い気持がし出したのです。丁度、怖い父親の前に坐らされて居ると云つたやうな気持です。処が、海は全くさうではないのであります。どんな悪い事を私がしても、海は常にだまつて、ニコ/\[#「ニコ/\」に傍点]として抱擁してくれるやうに思はれるのであります。全然正反対であります。ですから私は、これ迄随分旅を致しましたうちで、荒れた航海にも度々出逢つて居りますが、どんなに海が荒れても、私はいつも平気なのであります。それは自分でも可笑しいやうです。よし、船が今微塵にくだ
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