1−92−51]《しんにゆう》をかけて来ると、ミシ/\、ミシ/\と鳴り出す仕末、棺桶で無いから輪がはづれたとて、グニヤリと死人がころげ出す事もあるまいが、もし此家が壊れたら、飛び出す者は鼠一匹処の話ではない。現に、この自治寮に住つてゐる学生と云ふ人間が、其数約六百は居る。それに俺等の仲間で、此家に棲つてゐる連中が、丁度、五十位は有るから、合計六百五十位は居るだらう。俺等も人間とイツシヨに数へると、人間が怒るかも知れんが、チツとも怖くない。俺も今年で三歳子だ、金魚なら一匹十五六銭はする頃だ。甘いも酢いも、随分心得たつもりさ。
 これから、愈※[#二の字点、1−2−22]、俺の記となるのだが、扨、こー話しかけて見ると、何だかボーツとしてしまつて、遠方の方で生えかけの口鬚でも見る様に、どれが鬚だか眉毛だか、彷彿として霞の中だ。誠に、今昔の感に堪へん気持がして来る。が、まづ俺が最初此処にやつて来た、其折の頃からボツ/\とやらかさうか。なに、俺だつて、もと/\こんな処に居りはしなかつたので、矢張り店屋の軒で、ブラ/\と呑気に遊んで居たのだが、丁度、今から三年前さ、同じ仲間の奴とイツシヨに十計り、
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