云へば、少々御目出度い方かも知らんが、天真だと思ふ。頭を分けて、たのしんで居る処は無邪気ではないか。以て愛す可しだ。反対で、蛮カラーと云ふ奴は、表裏は天真ラシイかも知れないが、僕はどーも陰険だと思ふな。かう云ふと君は蛮カラ也、故に陰険也と来るかもしれんが、君丈は例外だ。之は証明するのは苦しいが、慥に、一筋繩では行かぬ人間だ。えらい奴も有らうが、悪党もきつと蛮カラーに有るよ。だから僕は蛮カラー親しむ可からず、ハイカラー愛す可しと云ふのだ。どうだい」、水でもほしいと云ふ顔付だが、可愛さうに、此の大議論に誰も耳をかたむける者がなかつた。
かれこれする中に、四時になつた。すると「チビ」は「僕はもー行かう、失敬」と、又、窓から出て行つた。まるで猫だ。「ヤイ、余り呑むな」、大頭が首を出して笑つた。室の中は、今の「チビ」が穿いて来た靴の泥で、すこむる汚なくなつた。「汚いなー、どうも通学生は個人主義でいかん。自分が居らんからつて、まるでメチヤだ。通学生位、癪にさはる奴は無いよ」と、コボしてゐるのは大頭だ。しかし実を云ふと、俺の見てる中に、此の大頭先生も窓から出た事があつた。
人間と云ふ者は、得手勝手な者だな、と、俺はつく/″\思つた。得手勝手と云ふ事は、欲目と云ふ事だ。贔負目《ひいきめ》と云ふ事だ。贔負目と云ふのは、善い事が悪う見えたり、悪い事が善く見えたりする事だ。自分がえらく思へたり、露西亜が自分で強く見えたり、月が太陽より大きく見えたり、星が笑つて居る様子に見えたり、菫が泣いてる様に思つたり、昼よりも夜が明るく見えたり、西瓜が幽霊と思へたり、汽車よりも自動車が早い様に思へたりするのも、皆、此の得手勝手から生ずるのだと思へば、得手勝手も、中々詩的な物だと、俺は一人考へて居たのであつた。
扨、こんな様子で、俺は二三日、四番室で遊んで居たが、目に見えて感心したのは、此の四人だ。そりや中々悪口もつくし、悪戯もするが、もと/\悪気が有つてゞは無いので、其中のいゝ事は、まるで一心同体だ。起きるのも諸共、騒ぐのも諸共、甘い物を喰ふ時も諸共、寝るのも諸共、俺もつく/″\羨ましい位であつた。話しは、中々これ位な事ではない。併し、随分長話をした様であつたが、少しは君等には解つたかい」と、これで四年目の先生の話は終つたのであつた。「いやどーも大したもので」と、実は俺も内心此奴の経験の複雑なの
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