をはこぶ ゆれてゐる 紅《あか》と黄金《こがね》の薔薇の花。

     22[#「22」は縦中横]

朝な朝な ふしぎなねむりをつくる わすられた耳朶色《みみたぶいろ》のばらのはな。

     23[#「23」は縦中横]

かなしみをつみかさねて みうごきもできない 影と影とのむらがる 瞳色《ひとみいろ》のばらのはな。

     24[#「24」は縦中横]

ゆたゆたに にほひをたたへ 青春を羽ばたく 風のうへのばらのはな。

     25[#「25」は縦中横]

陽《ひ》の色のふかまるなかに 突風のもえたつなかに なほあはあはと手をひらく薄月色《うすづきいろ》の薔薇の花。

     26[#「26」は縦中横]

またたきのうちに 香《か》をこめて みちにちらばふ むなしい大輪のばらのはな。

     27[#「27」は縦中横]

はだらの雪のやうに 傷心の夢に刻《きざ》まれた 類のない美貌のばらのはな。

     28[#「28」は縦中横]

悔恨の虹におびえて ゆふべの星をのがれようとする 時をわすれた 内気な 内気なばらのはな。

     29[#「29」は縦中横]

魚《うを》のやうにねむりつづける 瀲※[#「さんずい+艶」、第4水準2−79−53]《れんえん》としたみづのなかの かげろふ色のばらの花。

     30[#「30」は縦中横]

白鳥《はくてう》をよんでたはむれ 夜の霧にながされる 盲目《めしひ》のばらのはな。

     31[#「31」は縦中横]

あをうみの 底にひそめる薔薇《ばら》の花、とげとげとしてやはらかく 香気《にほひ》の鐘《かね》をうちならす薔薇の花。

     32[#「32」は縦中横]

けはひにさへも 心ときめき しぐれする ゆふぐれの 風にもまれるばらのはな。

     33[#「33」は縦中横]

あをぞらのなかに 黄金色《こがねいろ》の布《ぬの》もてめかくしをされた薔薇の花。

     34[#「34」は縦中横]

微笑の砦《とりで》もて 心を奥へ奥へと包んだ 薄倖のばらのはな。

     35[#「35」は縦中横]

欝積する笛のねに 去《さ》りがての思慕をつのらせる 青磁色のばらのはな。

     36[#「36」は縦中横]

さかしらに みづからをほこりしはかなさに くづほれ 無明の涙に さめざめとよみがへる薔薇の花。



底本:「世界の詩 28 大手拓次詩集」彌生書房
   1965(昭和40)年10月25日初版発行
   1981(昭和56)年6月5日7版発行
※底本では一行が長くて二行にわたっているところは、二行目が1字下げになっています。
入力:湯地光弘
校正:丹羽倫子
1999年10月30日公開
2005年11月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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