も伸びてきて、
おとろへた人人のために
音《ね》をうつやうな香炉をたく。
ああ 凋滅《てうめつ》のまへにさきだつこゑは
無窮の美をおびて境界をこえ、
白い木馬にまたがつてこともなくゆきすぎる。


  創造の草笛

あなたはしづかにわたしのまはりをとりまいてゐる。
わたしが くらい底のない闇につきおとされて、
くるしさにもがくとき、
あなたのひかりがきらきらとかがやく。
わたしの手をひきだしてくれるものは、
あなたの心のながれよりほかにはない。
朝露のやうにすずしい言葉をうむものは、
あなたの身ぶりよりほかにはない。
あなたは、いつもいつもあたらしい創造の草笛である。
水のおもてをかける草笛よ、
また とほくのはうへにげてゆく草笛よ、
しづかにかなしくうたつてくれ。


  球形の鬼

あつまるものをよせあつめ、
ぐわうぐわうと鳴るひとつの箱のなかに、
やうやく眼をあきかけた此世の鬼は
うすいあま皮《かは》に包まれたままでわづかに息《いき》をふいてゐる。
香具をもたらしてゆく虚妄の妖艶、
さんさんと鳴る銀と白蝋の燈架のうへのいのちは、
ひとしく手をたたいて消えんことをのぞんでゐる。

前へ 次へ
全63ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大手 拓次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング